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第十六回
「虫の旬 秋(6)」
(3)スズメバチ(幼虫、さなぎ、成虫)(3)
 

 日本のスズメバチ16種のうち、伝統的に食用とされてきたものに、オオスズメバチ、キイロスズメバチ、クロスズメバチ、シダクロスズメバチなどがある。スズメバチではないがフタモンアシナガバチなども食用とされた。スズメバチは古来より食用とされ、江戸時代の『和漢三才図絵』にもその記録がある。スズメバチ食はそうした伝統を今日に伝えている。

 クロスズメバチはヘボ、ジバチ、スガレとも呼ばれ、長野、岐阜、愛知など中部地方の山間部一帯で好んで食べられており、今日でも土産物として、また珍味として、広く知られている。甘露煮や蜂の子飯が主な調理法である。イナゴとならんで昆虫食材を代表している。本種は養殖もされていて、人気度が高いことがうかがえる。野山からまだ小さい巣を採取し、自宅の敷地内で飼育するもので、秋には大きく成長した巣を各自がもちよって「全国地蜂サミット」なるものが開催されている。2007年、長野県大町市の大町地蜂愛好会では、2010年地元開催の宣伝をかね、クロスズメバチをそのまま焼き込んだ「地蜂せんべい」を作った。秋に役目が終わった働きバチを捕獲、湯通しして乾燥させたものを材料にするのだそうだ。「せんべいをきっかけに地域の風習や食文化を知ってもらい、大町のPRにも結び付けたい」と会長はいう。蜂の子弁当の発売も計画中とか。蜂の子食文化は日本に根強い。

 先に紹介したイナゴと同じく、スズメバチも俳句の季語として定着している。

  高原の水禍をよそに地蜂焼  飯田蛇笏
山を恋ひ蜂の子飯を恋ひわたり  宮野小提灯
蜂の子を食べて白骨泊りかな  野見山朱鳥
眼がのぞく秋の蜂の子売られけり  加藤知世子
蜂の仔採り贄の蛙をかかげたり  稲垣敏勝

 スズメバチは小昆虫を肉団子にして幼虫の餌としており、農業害虫の天敵としての役割が大きい。だがいっぽうで毒性が強く、場合によっては死にいたることもあり、事実毎年数十人がスズメバチに刺されて死亡している。とりわけオオスズメバチの毒は量が多く、マンダラトキシンという神経毒がその主成分である。応急手当としては、刺された箇所を流水であらい、毒を吸いだし、抗ヒスタミン入りステロイド軟膏を塗る。

 ハチ毒の場合は一度刺されて大丈夫だったからといって安心できない。一度刺されると抗体ができ、二度目に刺されるとアレルギー反応をひきおこしショック死に至ることがある。いわゆる「アナフィラキシー・ショック」(特異過敏症)である。嘔吐、下痢、発熱、全身浮腫、血行不良、呼吸困難などがおもな兆候である。この兆候が現れたらすぐに医療機関で治療を受けなくてはいけない。

 このようにスズメバチは人間側の都合から駆除の対象とされる。依頼された駆除業者はこれまで殺虫剤を噴霧して巣ごと廃棄するのが大方だった。だが一部に殺虫剤をつかわずエーテルなどで気絶させて巣を採る業者もいる。成虫を蜂蜜業者に販売する(蜂蜜にスズメバチ成虫を入れると付加価値がつくらしい)ためであったり、殺虫剤を使わないというのをセールスポイントにするためであったりする。

 スズメバチを自分で採集するのは危険がともなう。食材としてすぐれているにもかかわらず、食文化として定着している地域をのぞいて、なかなか入手が難しいのはこのためだ。スズメバチを手に入れるには、殺虫剤をつかわない業者を探して分けてもらうのが一番いい。とりわけキイロスズメバチなどは人家の軒下や天井裏などに営巣するので、良心的な業者のなかには殺虫剤を使わずに取る場合が増えてきていると聞く。付き合いができれば毎年旬のスズメバチ料理を楽しむことができる。

(スズメバチの項、次回に続く)


参考文献
水原秋櫻子、加藤楸邨、山本健吉監修(1998年):『日本たべもの歳時記』、「蝗、蜂の仔」、講談社。
羽根田治(2004年):『野外毒本』、山と渓谷社。

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