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第十四回
「虫の旬 秋(4)」
(3)スズメバチ(幼虫、さなぎ、成虫)(1)

 スズメバチ類はもっとも美味しく食べやすい、したがって応用範囲の広い食材の代表格といえる。まずはスズメバチのなかでも食べ応え満点のオオスズメバチを使ったおすすめメニューを紹介し、スズメバチ食の魅力を実感していただこう。

  ●オオスズメバチの串焼き
【材料】(4本)
老熟幼虫(5齢) 8頭
前蛹 8頭
蛹 8頭
羽化直後の成虫 8頭
大葉 4枚
竹串 4本
たれ
 酒 大さじ2
 砂糖 大さじ2
 醤油 大さじ2
 【作り方】
1 幼虫はお尻をつまんでフンを出す
2 さっと湯通しする
3 発育別に各2頭づつ8頭を串に刺し、これを4本作る
4 焼きアミにのせ、裏表にたれをつけながらこんがり焼く
5 皿に大葉を敷き、串をのせる

 香ばしい焼きたてをほおばる。虫の旨味が口中に広がる。中部地方に今も残る伝統的なスズメバチ料理というとクロスズメバチだが、オオスズメバチの幼虫や蛹はその5倍ちかく大きい。したがって串に刺して焼くことができる。食べ応えも味のうちである。このレシピではスズメバチの全発育段階をそろえている。シンプルだが贅を尽くした料理である。

 巣盤のなかの幼虫は白くてプリプリして頭部が淡い黄色である。まるで小さなオッパイが無数に並んでいるようにも見える。もっとも幼虫は、与えられる餌と交換に乳状の栄養液を親バチに与えるのだから、オッパイといえなくもない。採ったばかりの巣では親バチの給餌を求めていっせいに元気よくクビをふっているのがかわいい。オオスズメバチの場合は幼虫のフン抜きが美味しく食べるのに欠かせない。幼虫は肛門がないのでフンをためこんでいるからだ。巣盤から抜いた幼虫のお尻の先を少しちぎり、指で押すと黒くて長い不消化物がにゅるっとでる。

 蛹ではフン抜き作業は必要ない。繭を作った段階で肛門が開通し、一気に脱糞する。この段階を前蛹といい、蛹から成虫になるためのエネルギーに満ちている。食感はクリーミーでやわらかく、味はほのかに甘く、どこか懐かしい香りがする。ほっと安らぐ味わいである。

 数日すると目鼻立ちがしっかりした蛹になる。劇的な変化である。こうなると食感もあきらかにちがってくる。少し歯ごたえが出てくる。日を追うごとにキチン質が固まり、シコシコした歯ごたえになる。体色も透き通るように白かったのが、次第にタイガースカラーに変化する。

 白い繭を取り除くと、羽化直後の成虫が驚いて巣から這い出してくる。当然まだ翅は開いていないので飛ぶことはない。むろん刺すこともない。羽化直後なので体はまだしっかり固まってはいないが、それでも歯ごたえは十分である。噛み締めると旨味が舌にじんわり広がる。

 巣盤から幼虫を取り出す作業は手間がかかる。ピンセットなど使ってそっとつまんで抜き取る。蛹の場合はさらに手間がかかる。蛹室を覆う白い繭は丈夫で、たくさんあり、破くのに一苦労である。素手だと人差し指が痛くなるので、ペンチでむしり取る手もある。ちょっと油断して破るとやわらかい蛹の頭がとれてしまったりする。繭がとれたらやはりピンセットなど使ってそっとつまんで慎重に抜き取る。

 繭を作って脱糞すると淡いクリーム色をした「前蛹」(体内大革命前夜)の段階になり、これが最高に美味いというのが定評である。オオスズメバチ食文化をいまに伝える宮崎県高千穂地方では「フグの白子より美味」と賞賛される。ホタテの香りとも、茹でたトウモロコシの味とも形容される。それぞれの好物から連想だろう。蛹の段階がすすんだ頃合いも歯触りがあり、これもまた格別である。

 巣盤から蜂の子を抜くのは一仕事である。昔は向こう三軒両隣が寄り合ってこの作業をしたようだ。飽食の時代といわれる今でもこれほど美味なのだから、昔は蜂の子がとれた時はカーニバルの興奮がそこにあったに違いない。みんながうきうきしながら夜なべで抜き取り作業をしたことだろう。

 (スズメバチの項、次回に続く)


  参考文献
松浦誠(2002年):『スズメバチを食べる──昆虫食文化を訪ねて』、北海道大学図書刊行会。

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