「野食コラム」の目次に戻る

<< 前回のコラム || 次回のコラム >>

第十二回
「虫の旬 秋(2)」
(2)バッタ(成虫)(1)

 「嵐とともにやってきた
 誰だ 誰だ 悪をけ散らす 嵐の男
 仮面ライダー 正義のマスク」

 ごぞんじ「仮面ライダーの歌」である。男の子にとっての永遠のヒーロー、仮面ライダーのモチーフがトノサマバッタであることはよく知られている。仮面ライダーの顔はトノサマバッタそっくりだし、なによりあの「ライダージャンプ」はすごい。子供にはとても採ることのできないあこがれの虫なのだ。

 夏から秋にかけて成虫になるバッタ界の代表格であるトノサマバッタは、その名からして威風堂々として風格すらある。跳躍力はもとより飛翔力も群を抜いている。今回はこのトノサマバッタを食べる話である。

 毎秋10月中旬に催される「バッタ会」は我が昆虫料理研究会の恒例行事となっている。ネットを持った男女数十人が某河川敷に集まる。「いまから採集始めま〜す」のかけ声とともに、みんなが草むらに散ってネットを振りはじめる。毎回参加のベテランもいれば、初参加でこれまで虫取りなどしたことがない女の子もいる。最多40頭もとるベテランもいるが、たいていは5〜6頭で、10頭も採れればがいいほうだ。トノサマバッタはとにかく眼がいい。ゆっくり近づいたつもりでも後脚がピクリと動き、「トォー」とばかりジャンプして、翅を「ハタハタ」(バッタの語源はこの翅の音)と羽ばたかせ、数十メートル先の草むらへ飛んでいってしまう。獲物をねらう猫のように、背を低くして、じわりじわりと接近し、ネットの届く範囲にきたら、息を止めて一気に振り下ろすのが定石。経験を積んでコツをつかむしかない。

 バッタは眼がいいといった。彼らの雌雄のコミュニケーションは、鳴き声でも光でも匂いでもなく、形や色といった視覚に頼っている。「バッタつり」という採取方法がその証拠である。長さ80ミリぐらいの四角い棒きれ(ほぼ雌の長さ)を黒くぬり(体色が黒い群生相は集まる習性がある)、釣り糸を結び、バッタのそばにおく。すると雄のバッタが棒きれを雌と間違えて近づき、棒きれにとび乗ってしっかりつかまる。こうなるとつり上げても(恍惚状態のため?)離そうとしない。

 さあいよいよ採集したバッタを持ち寄って調理・試食である。取れたて新鮮だからどう調理しても美味いに決まっている。とりあえず一度殺菌のために熱湯に通す。体色が美味しそうな淡いピンク色に染まり、なんとも旨そうで、採集で腹を空かせたみんなの食欲をそそる。おなじキチン質を持つエビ・カニの仲間であることがわかる。熱湯から上げてよく水分をきる。素揚げでもカリカリして旨いし、衣をつけて天ぷらにするとサクサク感が加わってさらに旨い。トノサマバッタは大きいので、ほかのイナゴなど小型バッタよりも食べ応えも十分である。その分時間をやや長めに揚げることだ。そうすれば脚だってあまり苦にならない。こうして秋の一日、参加者は自然の恵みを満喫するのである。

 稲作の日本ではイナゴが害虫として駆除の対象になっている。一方でトノサマバッタは普通の虫という認識がほとんどで(子供たちにとっては採りたくても採れないあこがれの虫だが)毎年被害に見舞われるというものではない。ところが一度被害を被るとその規模は尋常ではない。『北海道蝗害報告書』によると、100年ほどまえ北海道の開拓地で大発生し、「バッタが飛び去ったあとには、緑を食べ尽くされた、赤っ茶けた土地だけが残った」。世界に眼を転じると、トノサマバッタは時として「飛蝗(ひこう)」化し甚大な被害を及ぼしている。

 トノサマバッタには「孤独相」と「群生相」があることが知られている。普通は体色が緑か茶褐色で体も丸みを帯びた孤独相だが、なんらかの理由で数が増えると体色が黒褐色になり翅も伸びて精悍な体躯となる。これが「飛蝗」といわれ、集団で緑を食べ尽くして大移動する。多摩動物公園の昆虫館へ行くと飼育箱の網にびっしり張り付くようにとまっている群生相のトノサマバッタを見ることができる。

 (バッタの項、次回に続く)

「野食コラム」の目次に戻る

<< 前回のコラム || 次回のコラム >>