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第十一回
「虫の旬 秋(1)」

 秋は収穫の季節である。虫も食べごろになるものが多い。おいしく食べることができる代表的な虫たちを挙げてみよう。

(1)イナゴ(成虫)
(2)バッタ(成虫)
(3)スズメバチ(幼虫、さなぎ、成虫)
(4)クリムシ
(5)イモムシ
(6)カマキリ
(7)コオロギ
(8)クモ

以上がとりあえず頭に浮かんだオススメの食材である。クモは分類学上は昆虫ではないが、旬の虫として省けないので加えた。では順次見ていくことにしよう。

(1)イナゴ(成虫)

 イナゴ(蝗)の語源には諸説あるが、「稲の子」(大言海)が有力。「稲田に寄生する子(コ)」の意。コは小動物を示す接尾辞で、桑子(クワコ)、蚕(カイコ)、鮎(アユコ)など。

 日本人とイナゴとの出会いは古く、稲作がはじまる縄文末期のさかのぼる。それゆえイナゴ食も縄文より続く馴染んだ味ということになる。イナゴは稲を加害する害虫であると同時に、見方を変えれば貴重なタンパク源として益虫でもあったのだ。

 イナゴにはコバネイナゴとハネナガイナゴの二種類がいる。現在佃煮などで出回っているのは分布域の広いコバネイナゴが主で、ハネナガイナゴは中部以南にかたより、個体数も昔に比べて減少している。

 かつて戦前から戦中にかけて、また地域によっては戦後にいたるまで、農山村の小学校では、年に一度は「イナゴ採り」が行事として行われたらしい。二学期に入ってすぐのころ、「明日はイナゴ採り!」と先生がいうと生徒はみんな沸き立ったという。授業がなくなって虫を追いかけ回すのは楽しかったのだ。生徒たちはめいめい袋に短い竹筒を差して縛った容器を持ち、田んぼに散ってイナゴを採った。たとえば食用イナゴの最大産地であった仙台平野では1シーズン100トンを越えるイナゴが集められていたという。学校に集められたイナゴを業者が買い付けて回り、佃煮業者に販売されていた。学校はこうして得た収入を足りない学用品の購入に当てていたようで、学校にとっては貴重な収入源だった。

 昆虫食を今に伝える長野にはイナゴ食の貴重な証言が残されている。  


「秋には田のあぜにいなごがとび交う。手ぬぐいを縫った袋を腰に、いなごとりをする。夜に煮つけてつくだ煮にする。また、いろりのおきで焼いたいなごをおろし大根であえると、一味違ったおいしさがある。」(安曇平)


「秋になるといなごがとれる。稲刈りをはじめるとき、朝30分くらいいなごとりをしてから仕事にかかる。布袋へ入れて帰り、炒りなべで炒って足を除き、醤油と砂糖でからからに煮つける。何回かにわたって、一升か二升くらいを煮つけておき、ふたつきの入れものにとっておく。大切な滋養になる食べもので、ときどき出して食べる。」(伊那谷)


「稲の葉を食べて育ったいなごは、田んぼに霜の降りる前ころが脂がのっておいしく、「霜いなご」ともいわれる。稲刈りから脱穀のころ、さらしの袋を腰にぶら下げていき、田仕事の合い間に四つ五つととる。
 お湯に通してよく洗い、飛び足と羽をもぎとって甘からく煮つける。砂糖、醤油は目分量である。かめにとっておいて、冬中のおかずにする。
 また、お湯でゆでてから、からからに干したものをすり鉢ですりつぶし、いなご味噌にして食べる。田植えどきのなめ味噌になったり、産婦によいといって味噌汁に入れて食べさせる。
 いなごの煮かたにも家々の秘伝があり、色も味も歯ざわりも微妙に違っていて、自慢の種になる。」(佐久平)  


 このようにイナゴは文字通り日本人の伝統食である。佃煮が主な調理法だが、天ぷらや空揚げやフライにしてもおいしい。また数日天日干しすれば常温で保存できる。栄養的にみても、ある分析結果によれば、タンパク質が乾燥重量の68.1パーセントもあるのに対し、脂肪は4パーセントと少ない。とてもヘルシーな食材といえる。一般には粉にしてパン、うどん、ハンバーグなどに混ぜ込むと抵抗が少ないのではないか。

 イナゴは日本人の季節感とも密接にかかわってきた。それは俳句の秋の季語であることからもよく分かる。以下にイナゴを季語に詠んだ俳句を掲げる。


鴫網の目にもたまらぬ螽かな  史邦
道ばたや蝗つるみす穂のなびき  暁台
とび上る螽の腹に入日かな  高浜虚子
螽焼く燠のほこほこと夕間暮  飯田蛇笏
夕焼けて火花の如く飛ぶ蝗  鈴木花蓑
一字や蝗のとべる音ばかり  水原秋櫻子
蝗皆居向をかふる家路かな  阿波野青畝
石橋の蝗や野川とどまらず  山口誓子
みちのくの秋はみじかし跳ぶ蝗  福田蓼汀
蝗熬る炉のかぐはしき門過ぎぬ  西島麦南
ここまでの競輪の鉦蝗の昼  鈴木六林男
ひとり夜の煙草火で焼く蝗かな  赤尾兜子
蝗とぶやたんぼの中の湯葉料理  高桑義生
糸にさす蝗の顔のみなおなじ  大竹きみ江


参考文献
吉田金彦編著(2001年):『語源辞典 動物編』、東京堂出版。
篠原圭三郎(1998年):『虫たちを探しに』、日本放送出版協会。
向山雅重他編(1986年):『聞き書 長野の食事』、農文協。
篠永哲、林晃史(1996年):『虫の味』、八坂書房。
三橋淳(1997年):『虫を食べる人びと』、平凡社。
水原秋櫻子、加藤楸邨、山本健吉監修(1998年):『日本たべもの歳時記』、講談社。

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