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第十回
「虫の旬 夏(番外・タガメ)」

 前回の最後でカメムシに関連して昆虫の「匂い」について少し触れた。「味」とともに「匂い」の要素も美味しさに深く関わってくる。焼いたり煮たりした時の鼻孔をくすぐる香ばしい匂いは食欲をそそる。日本人にとってカメムシの「匂い」は食欲を減退させるが、世界の一部ではこれが食欲をそそるプラス評価となる地域もある。食文化の違いの顕著な例といえようか。

 旬という観点からすれば、国内でほとんどみかけないタガメは対象外かもしれない。しかも通常我々が食用とするのは、タイ産の近縁種タイワンタガメで、別名メンダーで知られている。にもかかわらずあえてここで紹介したいのは、その類例のない個性的な香りと味である。タガメはカメムシの仲間だが、多くの日本人に受け入れられる味と香りを持っている。

 タガメは田龜とも水爬虫とも書く。カメムシ目コオイムシ科の水生昆虫である。「高野聖」「かっぱむし」など異名を持つ大型昆虫で、名前の由来は「田にすむカメムシ」の意。水生昆虫の王者として君臨するも、日本では農薬使用など環境変化で激減し、絶滅が危惧されている。幼虫の頃から成虫になるまで一貫して、魚や蛙、昆虫などを捕まえて体液を吸う。雄が卵をふ化するまで世話することで有名。

 タイ北部からラオス、ミャンマーを結ぶ山岳地帯は、世界でも有数のケシ供給地であることから〈黄金の三角地帯〉と呼ばれている。それをさらに中国雲南省まで北に広げたこの一帯は〈食虫の三角地帯〉と呼ばれ、昆虫食が非常に盛んな地域として知られる。なかでもタガメはタイ王族にも好まれた由緒ある食材で、この地域を〈タガメ食文化圏〉と呼ぶ人もいるほど、普遍的に愛されてきた。

 なぜ、こんなにもタガメが珍重されたのか。それは食してもなお口のなかで広がる、心地よい香りに秘密がある。「タガメの雄は後胸に一対の嗅線をもち、バナナ臭を発する」と昆虫図鑑にある。そのためタイでは、香りのある雄のほうが雌の5倍ちかくも高い値段で売られている。この気品ある爽やかな香りの正体は、その嗅線に含まれる「アミルの吉草酸塩(カルボン酸エステル)」だといわれている。この成分は果実やハーブなどにも含まれているもので、リラックス効果や導眠作用がある天然成分として、欧米では古くから不眠症やストレス緩和の特効薬として重宝されている。

 ならば日本のタガメの「匂い」はどうか。この点については推測するしかない。日本でもかつてタガメが食用とされた記録はある。だが主に食べられたのは卵だったという。タガメ自体を食べる習慣がそれほど定着していなかったようである。したがってタイワンタガメほどの香り成分は含まれていないのではないか。日本でもタガメが増えて試食できるような自然環境がよみがえることを願うしかない。

 具体的なタイワンタガメの食べ方について触れておく。本場のタイなどでは屋台やショッピングセンターなどで、揚げて売られていたり、あるいは炒め物の味付けに使われていたりする。チリペッパーにタガメ風味を加えてペースト状にした瓶詰も販売されている。タガメの成分は心身をリラックスさせ、夏ばてを防ぐ効果がある。暑い国タイで好まれるのも道理である。これを日本風にアレンジして、そうめんの薬味にしたらどうか。ということで考えたのが以下のレシピである。

 
【レシピ】(3人分)

●材料
タガメ(オス) 3頭
そうめん 300g
削り節
ゆず 少々
しょうが 少々
みりん 1/2カップ
しょうゆ 1/2カップ
水 2カップ

●作り方
1 みりんを沸騰させ、しょうゆ、水、削り節を加える。
  再度沸騰したら火をとめて濾し、2時間ほどおく。
2 タガメは約1時間塩抜きし、5分ほど蒸す。
3 羽を開いて外皮にハサミで切りこみを入れ、羽を閉じておく。
  お好みでおなかにゆずかしょうがをいれ、香りつけする。
4 湯を沸騰させた鍋にそうめんを入れ、強火で2分ほどゆでる。
  ざるにあけ、流水で冷まし、もみ洗いする。
5 タガメは羽を開いて外皮をめくり、中身を取り出す。
  それをつゆに入れ、薬味としていただく。
  

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