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第九回
「虫の旬 夏(3)」
(3)ショウリョウバッタ、オンブバッタの成虫

 この二種はバッタのなかでもよく目に付くのではないか。昆虫食入門者にはおすすめである。両者とも雌雄で体長が大きく異なり、雌は雄の倍近く大きい。

 オンブバッタは雄25mm、雌42mmぐらいが標準。近所の畑まわりの草地などでも見つかる。特徴は雌が雄をいつもオンブしていることで、オンブバッタの所以である。「雌にお任せの人生は楽でいいのでは」という御仁もおられるが、こうべったりだと浮気もできないし、一生奥さん任せというのもどうかなと私は思う。食材としてみると二頭同時にゲットできるのでうれしい。ということは天敵にとっても同様なのではないか。たとえ同時に食べられるリスクを犯してでも、オンブバッタ雄は自分の遺伝子を残すための究極の技を選択したとも考えられる。

 ショウリョウバッタは日本最大級のバッタである。雄45?52mm、雌75?82mmぐらいが標準。河川敷の草地に多い。8月の精霊(しょうりょう)祭のころ現れることから名付けられたという説が有力。雄は飛ぶとき翅を打ち合わせ「キチキチ」という音を出すのでキチキチバッタと呼ばれる。また後脚を持つと脚を折り曲げ体を前後させる動作を繰り返すためコメツキバッタとも。

 調理法は素揚げが一番である。昆虫全般に言えることだが揚げすぎに注意したい。170度の油でオンブが1分、ショウリョウが2分ぐらいが目安か。油の泡が細かくなり音が小さくなれば火が通った合図だ。家庭だと油の量も少量なのですぐ温度が上がってしまう。上がりすぎたと感じたらいったん火を止めて様子をみよう。ショウリョウバッタは大型だがカリカリに揚げれば翅や脚は思ったほど気にならない。人にもよるので気になるという場合は前もって外しておく。両者とも揚げると淡いピンクに染まり、食欲をいっそうそそられる。身近にたくさんいて採集が容易なこと、食べてクセがなくエビと同じような食感であることなど、虫を食べてみたい人にまずはおすすめのメニューである。

 
(4)集光性昆虫類(灯火採集)

 つぎに「飛んで火に入る夏の虫」を食べてみよう。夜行性昆虫の多くは明かりに集まる。灯火採集はその習性を利用して昆虫を採る方法で、昆虫採集技術として確立している。専門書を読むと必要な器具や方法が細かく書かれている。ガ類が主だが、他に甲虫類のカブトムシ、クワガタムシ、コガネムシ、カミキリムシ、ガムシなどや、ヘビトンボ、カゲロウなども採れる。風がなく月もでていない夜がねらい目である。好条件に恵まれると一晩で数千匹も採集できる(ただしここには食用に不向きな微少種も含む)そうだが、本格的だと費用もかさむので、気軽にできる方法を述べる。

 夏どこかへキャンプに出かけたら、そのついでに楽しむことができる。できるだけ周辺の外に開けた区画を申し込み、電源があることも確認しておく。蛍光灯(あればブラックライトも併用)、白いシーツ、園芸用支柱2?3mを5?6本(あるいは現地で適当な枝を探す)、紐などを持参したい。設置に当たっては他の泊まり客に迷惑にならないよう心がける。

 食べる前に注意点をひとつ。カンタリジンという毒を有するマメハンミョウやアオカミキリモドキも飛来するかもしれない。これらが集団でやってくることはないにせよ、食べないにこしたことはない。まえもって図鑑をみて確認しておこう。とくにアオカミキリモドキは集光性が強いとされている。触っただけでも体液でかぶれたりするので注意したい。

 食べ方の基本は、シーツにとまった昆虫を次々熱した油に放り込んで食べる、というシンプルかつプリミティブな方法である。夜闇にまぎれて獲物が来るのをじっと待つのはまるで先祖返りした気分で、全身の細胞が躍る。基本的に塩コショウで食べる。

 ガ類は丸ごと食べられる。鱗粉は大丈夫かという声をよく聞くが、毒でないことはもちろん、揚げてしまえばまったく粉っぽさなどない。お腹のふくれた子持ちガに出会えれば幸運である。微少だがプチプチした卵の歯触りがうれしい。

 飼育に興味のある人は、ヤママユガの雌が来たら食べずに持ち帰るといい。たいてい交尾済みなので有精卵を産む。適度な湿り気を与えて保管しておくと、うまくすれば翌春孵化する。コナラやクヌギの葉を与えるとどんどん太り、淡黄緑色の美しい繭を作るのが観察できる。やがて大型の成虫が羽化する。このヤママユガのサナギが美味い。普通のカイコのサナギより大きく、サクサン(中国産のヤママユガ科)より小さい。網で焼いて皮をむくと香ばしくほっくりした食感が楽しめるし、茹でると中身はトロトロした豆腐状で玉子の白身の味に似ている。たぶん新鮮だからこそ味わえる美味さなのであろう。

 甲虫類も揚げるとたいがい丸ごとポリポリ食べられる。ただ大型のカブトムシ、クワガタムシ、カミキリムシなどは、開いて旨味のある胸肉を食べる。

 もっと虫の味を味わいたい人には蒸し焼きがおすすめ。大型甲虫はアルミホイルがあったら包んで蒸し焼きにしてみよう。ちょっと醤油を回していただく。赤身の胸肉は噛み締めるとサラミのような旨味がにじみ出る。

 カメムシ類も飛来する。カメムシはやはり独特の臭気がある。日本人の多くが嫌う臭いだ。しかし東南アジアの一部(とりわけラオス)では香草とともに好んで調理に使われる地域もあるらしい。東南アジアで広く食べられているタガメ(筆者は本種の香りと味を「バナナの香り、洋ナシの味」と例えて説明している)も、よく考えればカメムシの仲間である。それと分かれば納得がいく

参考文献
奥本大三郎、岡田朝雄(1991):『楽しい昆虫採集』、草思社。
野中健一(2007年):『虫食む人々の暮らし』、日本放送出版協会。

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