「野食コラム」の目次に戻る

<< 前回のコラム ||

第八回
「虫の旬 夏(2)」
(2)カブトムシ、カミキリムシ、クワガタムシ、カナブン、ハナムグリ、ゾウムシなど甲虫類の成虫

 甲虫類は昆虫のなかでもっとも種類が多く、日本だけでも約7000種といわれている。図鑑に登場する主役たちだけでも1000種をこえる。分類学上は鞘翅目に属している。その名のとおり体全体が非常に硬いキチン質で覆われている。日夜全身「よろい」を身につけて暮らしているようなものである。柔軟性は失われるが、敵に襲われても生き延びる確率はたかく、繁栄を謳歌している理由もうなずける。爬虫類のカメなどもこの戦略で悠久の時を生き延びている。

 ではさっそく身近で採取できる有名どころの甲虫を食べてみよう。

 
(a)カブトムシ

 本種は子供たちの人気ナンバーワン昆虫である。クヌギやコナラなど樹液が出る木に飛来する。比較的採集は容易である。本種は大型で硬いので丸ごとは食べられない。通常虫体を開いて胸肉を食べる。アルミホイルに包んで蒸し焼きにするのが一番カブトムシの旨味を味わうことができる。昆虫一般に胸部に翅や脚など運動機能がまとまっている。この筋肉が可食部位である。塩コショウでいただく。幼虫はそのプリプリした外見に似ず腐葉土臭が強くて食べにくいのだが(サナギ段階でも同様の臭みは強い)、成虫になると樹液を餌にしているせいか腐葉土の臭みは微塵もないのが不思議だ。木に上り空を飛ぶために胸部の翅や脚の筋肉が発達し、運動機能に関与する伝達物質であるグルタミン酸が増えるのが旨味の要因なのではないかと推測できる。

 早朝の雑木林では、木の根元に殻が破られ中身が食べられたカブトムシがたくさん転がっていて、まだ角や脚が動いていたりする。カラスは美味いものをよく知っているのだ。

 
(b)カミキリムシ

 本種の幼虫はテッポウムシあるいはゴトウムシと称され、昆虫食界では美味い虫ナンバーワンとされてきた。成虫もカブトムシと同様ホイル焼きで美味しく食べることができる。筆者の場合は、家の近くに野生化したクワの木があり、夏になるとこの木につくクワカミキリを採取して食べるのを楽しみにしている。

 かつて長野県の伊那地方の山間部で食べられていた変わった方法を本多勝一氏が紹介しているので要約したい。氏の場合はシロスジカミキリである。山で一定量を採取してもちかえり、頭部をちぎり、中身がでないようにまっすぐ囲炉裏の灰にさす。しばらくして香ばしいにおいがしてきたら、灰から抜き取り、硬い翅をむしってサジ代わりにして、クリーム状の中身をすくって食べるというもの。

 シロスジカミキリは体長5センチの大型種である。新鮮なシロスジの半熟はきっと美味いにちがいない。クワはいくぶん小さく、しかも囲炉裏のようにじわじわ蒸す方法がわからない。今年の夏こそはなんとか半熟カミキリを味わいたいものである。

 
(c)クワガタムシ

 本種は大人達にも人気の昆虫である。成虫の調理法や味はカブトムシやカミキリムシとほぼ同じと考えていいだろう。ただクワガタムシは種類が豊富で、希少価値もあり、食べるのがもったいない気分にさせられる。筆者もクワガタムシは試食経験が少ない。

 
(d)カナブン、ハナムグリ

 カブトムシと同じコガネムシ科に属する。カブトムシやクワガタムシに比べて量が取れることもあり人気度は落ちる。20mm〜30mmと小型なので食べ方が異なる。これらは開いても筋肉は微量で食べにくいので、揚げて食べることになる。小さいのでチキン質の外皮も薄く、まるごとカリカリ食べることができる。

 
(e)ゾウムシ

 ゾウのような長い口吻があることからこの名がある。栗につくクリシギゾウムシは害虫としてよく知られている。クリシギゾウムシの幼虫は歯触りの良さとほのかな甘味で好評だが、成虫の美味しさはあまり知られていない。あのごつごつした外骨格がそうとう硬そうに見えるためだろう。しかしもともと体が小さいので、揚げれば殻もカリカリ食べられるものが多く、食感は悪くない。

 

 最後にキチンについて一言。これは甲殻類のエビやカニの殻でよく知られている。昆虫類や甲殻類をふくむ節足動物の皮膚は硬いキチン質でおおわれ、外界から身を守るバリアーとなっている。さてこのキチンを食べるとどうなるか。キチン自体を消化する酵素をヒトは持っていないが、食物繊維と同等の働きがあるといわれている。食物繊維は脂肪やコレステロールの吸収を阻害し、これらの血中濃度を低下させる効果がある健康食品としてよく知られている。昆虫が体にいい理由の一つがここにもある。

参考文献
本多勝一:「こんなものを食べてきた」、週刊金曜日、2000年11月17日。

「野食コラム」の目次に戻る

<< 前回のコラム ||