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第七回
「虫の旬 夏(1)」

 いよいよ夏である。夏から秋にかけて虫たちは幼虫から成虫へと成長し、繁殖シーズンをむかえる。夏の代表的な食べられる虫たちを挙げてみよう。

(1)セミ成虫と幼虫
(2)カブトムシ、カナブン、ハナムグリ、カミキリムシなど甲虫類の成虫
(3)ショウリョウバッタ、オンブバッタの成虫
(4)集光性昆虫類(灯火採集)

   それでは順次見ていくことにする。

(1)セミ成虫と幼虫

 セミは夏の風物詩といわれ、夏を代表する昆虫である。セミは採取しやすい虫の代表である。子供のころセミ取りをした覚えのある人は多い。だが食べたという人はさすがに少ないだろう。昆虫食のメッカ信州生まれの筆者の場合も幼少のころ食べた記憶はない。ただ身近な存在だったせいか古来よりセミは世界各地で食用とされてきた。

 アリストテレスとファーブルのセミ食に関する逸話はよく知られている。アリストテレスは羽化直前の幼虫を「セミはあじわいきわめて甘美なり」と書き残した。これを読んだファーブルは、幼虫4頭を採取し、オリーブ油4、5滴、塩ひとつまみ、タマネギ少々で調理して家族で試食した。感想は、食べられないことはないが、硬くて、パサパサで、とても人にはすすめられない、というものだった。筆者はアリストテレスを支持する。ファーブルの試食したセミはなぜまずかったか。いくつかの推測はできる。

 第一に、どんな種類のセミを食べたか分からない。種類によって味に違いがあるのではないか。南仏にどんなセミが生息しているか。おわかりの方がおられたらご教示ねがいたい。

 第二に、ファーブル昆虫記に書かれている材料から判断すると油で炒めたものであろう。「硬くてパサパサ」になったのは油が少量でしかも炒めすぎたからではないか。

 第三に、ファーブルは焼けつくような太陽が出てから採集している。そのため家族で2時間探して4頭しか採集できなかった。セミの羽化は日没から夜半にかけて行われるのが普通だ。天敵に襲われない夜間に十分羽をのばしておかなければならない。ファーブルが採集したセミは健康な個体ではなく、発育不全だったのではないか。

 セミは日本でも各地で食べられてきたようだ。長野や沖縄でその報告がある。セミは農家にとって害虫である。果樹とりわけリンゴやナシの樹液を好んで吸汁する。リンゴ栽培がさかんな長野県では、主にアブラゼミの吸汁による木の衰弱が問題となった。成虫は幹から樹液を吸い、産卵して死ぬが、孵化した幼虫は根元の土中にもぐり、4?6年の間木の根の汁を吸って木を弱らせる。そこで園芸試験場でセミ幼虫の捕獲器が考案され、リンゴ農家に配られた。捕獲された大量の幼虫はどうするか。そこはさすが長野県である。イナゴのように食用にならないか、と考えたらしい。加工して缶詰にして販売したら一石二鳥ではないか。そこで考案されたのが「信州セミのからあげ」という名のセミ缶だった。だがこの缶詰は時代の趨勢からいつのまにか姿を消したようだ。筆者も実物を知らない。

(成虫の食べ方)

 素揚げがいちばん食べやすい調理法である。捕ってきたセミを熱湯で殺し殺菌する。水気をよくふき取り、中温で揚げる。揚げすぎると焦げ臭くなる。塩コショウでいただく。サクサクと丸ごと食べられる。羽と脚を取ると食べやすい。ただ羽のパリパリした歯触りがいいという人もいる。好みである。アブラゼミはなぜか揚げ油が黒くなりやすい。噛み締めるとサラミのような旨味がジワリをにじみ出る。発達した飛翔筋(胸肉)が旨味の元ではないか。割ってみると胸部にごくわずかだが赤身の部分が確認できる。

(幼虫の食べ方)

 幼虫は応用範囲が広い。食感はエビによく似ているので、エビ料理をそのまま応用できる。昆虫としてはめずらしく身が詰まっていてシコシコした肉の歯ごたえを楽しめる。天ぷらやフライにしても美味しいし、セミチリならぬエビチリにしてもいい。

 変わり種は燻製である。研究会でも好評を得た。料理は香りや風味の要素も大きいことが実感させられる。

 1 だしつゆ+酒で10分茹でる。
 2 ざるに上げて1時間ほどさます。
 3 燻製15分
 4 火を止めて5分

 家庭用の簡易燻製器でおいしいセミの燻製ができる。だしは使わずに茹でて塩をふって1時間おいてもいい。燻煙時間は燻製器によって若干異なる。どこか植物的なナッツ系豆系の旨味と燻製の香りがミックスして鼻孔をくすぐる逸品である。

 最後に、クマゼミは関西以南では一般的だが、関東地方ではあまり目にしない。北限は小田原とされているが、温暖化で次第に北上しているようだ。筆者がまだ口にしていないセミである。アブラゼミなどより一回りおおきくて、食べ応えもありそうだ。西日本方面の方の試食報告を期待している。

参考文献
三橋淳(1997年):『虫を食べる人びと』、平凡社。

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