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第六回
「虫の旬 春」

 生き物にとって春の訪れは待ち遠しい。そんな春のきざしをどこで感じるかは生き物さまざま人さまざまであろう。筆者の場合はキチョウの初見であろうか。関東地方ではそれはだいたい3月半ばごろやってくる。秋に羽化したキチョウは成虫越冬する。毎朝通勤で多摩川の土手を歩く。3月になると落ち着かず、左右の草むらに視線を走らせることになる。そしてその日は今年もやってくる。キチョウだ。まだ弱々しくヒラリヒラリと、だが確実にやってくる春のプレリュードである。

 桜の開花とともに虫たちも活発に動き回るようになる。ただ本格的な虫食いシーズンの到来はやはり5月になってからである。このころの旬の虫はなんだろう。

  (1)クビキリギス、ツチイナゴ成虫 (2)オオカマキリ1齢幼虫 (3)キリギリス、バッタ、コオロギ幼虫

以上が比較的採集が容易な虫たちである。順にみていこう。

(1)クビキリギス、ツチイナゴ成虫
 クビキリギスはキリギリス科に属する。秋に成虫になり翌年初夏まで生きる。緑色型と褐色型がある。大あごが血のように赤く、噛みつく力も強い。春のぽかぽか陽気に草地などかき分けて歩くと飛び出してくる。手で簡単に採取出来る。血のしたたる生肉を食ったような赤い大顎は見た目で怖いし、事実噛まれるとけっこう痛いので注意したい。
 ツチイナゴはイナゴ科に属する。クズの葉を好む。枯れ草の下などで越冬する。複眼の下にのびた黒い線模様がアイラインのようで、切れ長に見えたり涙目に見えたりする。背中に白い線があるのも特徴。体長5?6cm。
 南西諸島以南に分布する近縁種タイワンツチイナゴ は最大8cmにもなる大型種で、タイなどではよく食べられている。

 (食べ方)
 クビキリギス、ツチイナゴも素揚げで塩コショウがもっとも食べやすい。取れたてを夕飯に揚げてつまみにして一杯というのが一番おつな食べ方であろうか。クビキリギスの雌には長い産卵管があって見た目痛そうだが、揚げると全く問題なくサクサクいただける。ツチイナゴも同様である。やはり揚げて塩コショウが手っ取り早い。大きくてもイナゴと名が付いているので心理的にもハードルが低い。タイで揚げてパック詰めしたものが輸入されているが、トノサマバッタより大きく、実に食べ甲斐がある。

  (2)オオカマキリ1齢幼虫
 卵嚢から生まれたてのベビーを集めて食用にする。これには前もって卵嚢を集めておく必要がある。集める時期は1月か2月ごろがいいだろう。葉が枯れて卵嚢が目立つので取りやすい。河原の土手沿いに葉を落とした小灌木の小枝やイネ科の葦などの茎を見ていくと、卵嚢を見つけることができる。比較的まとまって産み付けられていることが多いので、一個見つけたら周辺も探してみよう。
 採取した卵嚢はまとめておいて、4月半ばごろになったら、割り箸で固定し1個ずつチャック付きビニール袋などに上下を間違えずにいれ、ストローを差し込んでチャックをしめる。ストローは空気穴だ。少しだったらこれを飼育ケースなどの中につるしておく。筆者の場合は自室の壁に画鋲でとめている。孵化するのを見計らってストローを抜き取り、チャックを完全に閉じる。くれぐれも茶の間などにおかないことだ。午前中に孵化することが多いので、留守中に孵化したら部屋中にカマキリベビーが拡散することになる。相棒が虫嫌いだったら騒動になりかねない。
 筆者の場合冬季に20?30個ぐらいを採取しておく。カツオブシムシに寄生されている卵嚢も多い。経験上2?3割は孵化しない。孵化したらまとめて冷凍保存する。これだけあると試食会などでだいたい一年分使える量になる。

(食べ方)
 まず油通しする。網じゃくしなどにいれ、中温で泡がなくなり音が落ちついたら上げる。10?20秒ほどが目安。くれぐれも焦がさないこと。油を切ってよくほぐし、削り節をふりかけて混ぜる。豆腐にのせていただく。ふりかけとして食べるのが一番だろう。いろいろバリエーションがありそうだ。

  (3)キリギリス、バッタ、コオロギ幼虫
 キリギリス、バッタ、コオロギ類の幼虫など、いよいよ春のニンフたちの登場である。ニンフ(nymph)とはギリシャ神話で自然界の精霊いわゆる妖精のことで、美しい少女の形容である。また不完全変態をする昆虫の幼虫をいい、若虫とも呼ばれる。キリギリス、バッタ、コオロギ類の幼虫は文字通り軽やかに新緑の草地を跳び回る春の妖精たちである。彼らをいただくことは春の息吹を体内に取り込むことなのだ。昆虫食にとって実に象徴的な行為といえる。
 5月になると体長10?20mmあまりに成長する。昆虫料理研究会では毎年5月下旬に「若虫会」と称して屋外での試食会を開いている。われわれ虫食い仲間にとっては待望のシーズン到来を実感できる催しである。草地をかき分け飛び出してくる虫たちを採取、その場で調理して食べる。

(食べ方)
 アウトドアなので素揚げ、天ぷら、かき揚げが簡単で美味しく、かつ衛生的でもある。かき揚げには野草を加えるのも趣があっていい。どの虫も幼虫なのでやわらかい。バッタは揚げると赤く染まり食感は小エビとほとんど変わらない。

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