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第五回
「虫の旬 冬」

 食べ物の「旬」とはなにか。「よくとれて味のもっともよい時」(『広辞苑』)とある。いまは旬がわからなくなってきているとも言われている。国内ではハウス栽培がさかんだし、自給率が40パーセントを切ったくらいだから、スーパーには輸入食品があふれている。四季に関係なく様々な食品が並んでいるのだから、とれたての旨さを知らない日本人が増えて当然である。旬の味などわかろうはずもない。そうした反動か旬を見直そうと「地産地消」や「家庭菜園」への取り組みも盛んである。

 虫にも旬に似た食べごろがあるのではないか。いやむしろ季節を身近で手っ取り早く感じられる食材といえるのではないか。ということで春夏秋冬の虫の味に迫ってみたい。日本で虫をよく見かけるのはなんといっても夏から秋にかけてであろう。しかし冬から春にかけても虫の味を楽しむことができる。虫は秋に栄養を蓄えて冬はほとんどが餌をとらずにじっとしているので、夏など活動期にくらべ臭みがなく食べやすいといわれている。冬は虫の姿をほとんど見かけない季節だが、味わう方法はいくつかある。

  (1)朽ち木をくずす
(2)立ち枯れた木の樹皮をはがす
(3)川底の石をおこす
(4)河原のイネ科のアシなどを割る
(5)野生のクワの木などを切る
(6)虫を発酵させる

  (1)朽ち木をくずす
 「朽ち木くずし」はもっとも胸躍る採集方法である。雑木林などで草むらに朽ちかけた倒木を見かけると、まるで宝箱のように輝いて見えてくる。なかからなにが出てくるかわからないところがびっくり箱のようでもある。なかば朽ちてしっとり湿った程度の倒木を、手くわかピッケルなどでくずしてみよう。食用になるのは越冬中のクワガタムシ幼虫、キマワリ幼虫、スズメバチ成虫、ムカデなどである。
(食べ方)
・ムカデ
 付け焼きがもっともポピュラーな調理法である。市販のウナギのたれなど絡めてフライパンで焼く。香ばしい匂いが鼻をくすぐる。いくらか苦みがあるがなれるとやみつきになる。スナックとして「ムカデポッキー」も考えられる。ムカデを炒って粗目砂糖など絡めておき、製菓用チョコを溶かしてムカデにコーティングする。ムカデの形をそのまま楽しめるおやつになる。
・クワガタムシ幼虫、キマワリ幼虫
 量が採れるわけではないので、フライパンでバター炒めが簡単かつ美味しくいただくことができる。
・スズメバチ成虫
 これは貴重である。素揚げがもっとも食べやすい。感謝していただこう。

  (2)立ち枯れた木の樹皮をはがす
 立ち枯れた樹皮を剥がすと越冬中の虫たちに出会うことができる。運がよければオオゴキブリのファミリーを採集できる。彼らはまとまって越冬している。成虫と幼虫など10頭ほど持ち帰って飼育すると容易に繁殖する。
(食べ方)
・オオゴキブリ
 前に書いたマダガスカルゴキブリに比べ、外殻が比較的やわらかいので、揚げると丸ごといただくことができる。本種は森林に暮らし材を食べているので、他の雑食性ゴキブリに比べて臭みが少ない。加えて冬季は不活発で集合フェロモンの量も少ないのではないか。

  (3)川底の石をおこす
 川底の石をおこすと越冬中の水棲昆虫が見つかる。ザザムシが代表格である。長野県南部の天竜川に越冬するカワゲラ、トビゲラの幼虫をいう。佃煮にして土産物として販売されている。冬の一時期に漁期が限定され、高値で取引されている。スローフードとして認定されるなど注目されている。
 清流に棲むヘビトンボ幼虫は薬用として名高い。孫太郎虫と呼ばれ、江戸時代から小児の疳の虫に聞くとされ、「塩半俵」といわれるほど高価だった。
(食べ方)
・水棲昆虫類
 小さいのでまとまって採れたら佃煮がたべやすい。特にカワゲラ、トビゲラ類は噛み締めるほど磯の香りに似た風味を楽しめる。ヘビトンボ幼虫はやや大きいので個別に付け焼きなどがいいだろう。

(4)河原のイネ科のアシなどを割る
 小さな進入穴のある茎を割ると越冬しているスジツトガというガの幼虫が採れる。「ささ虫」などと称して釣り餌として売られている。
(食べ方)
・スジツトガ
 小さくてやわらかいので、さっとゆでてしょうゆを回していただく。噛むと外皮がプチンと破れ、中身はほのかに甘い。

(5)クワの木を切る
 野生化したクワの樹皮に1.5mm程度の排フン穴があり、粉状の虫フンを発見したら、穴の下部あたりを切ってみよう。クワカミキリ幼虫に出会えたら幸運である。かつて薪炭用に薪割りなどでカミキリムシ幼虫の採集が容易だったころは、テッポウムシと称され、最も美味な虫として定評があった。クワカミキリはイチジク、ビワ、ケヤキなどにもつく。
(食べ方)
・クワカミキリ幼虫
これもとりたてをフライパンでバター焼きがいちばんうまい。越冬中なのでフン出しも必要ない。そのものの味を楽しむにはホイル焼きがオススメ。甘くとろりとした舌触りは格別である。

(6)発酵させる
 冬季は虫を発酵させて楽しむこともできる。虫納豆、虫キムチ、虫の味噌漬けなどである。漬け込む虫は外皮がやわらかいものがいい。あまり硬いと菌がなかまで浸透しない。したがって幼虫系が適している。たとえば蜂の子、蟻の子などは漬かりやすい。いったん下茹でしてから使う。

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