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第ニ回
「虫を安心して食べるには A」
虫を安心して食べるには

 自然毒とはなにか。フグ毒のテトロドトキシン、キノコ毒のムスカリン、アマニタトキシンはよく知られている。有毒な虫では、クモ、サソリ、ムカデ、ハチ、アリ、ドクガ、ツチハンミョウなどが挙げられる。ただ日本に生息する虫の毒は微量だし、ペプチド構造(小型タンパク質)が多く、しっかり加熱することで分解するものがほとんどである。毒が直接血液内に入ると危険だが、食べた場合は強力な胃酸の働きで減毒される。ただし採集や調理の際は細心の注意を払おう。スズメバチなど刺されなくても傷口などに毒液が入った場合アナフィラキシー症状を起こす場合もある。マツカレハは毒針毛があって刺さると激しい痛みを感じるが、食べると美味との記録もある。

 「まず七輪に火をおこして松毛虫(マツカレハのこと─筆者)を網の上に並べる。すると、熱いから網の上で暴れるので毛もおちてしまう。焼きすぎるとうまくない。箸で押さえるとジュッジュッと汁がでる程度がよく、口に含むようにしながら噛むと青汁が出て、松くさいようななんともいえぬ香りがツンと鼻にぬけて、これに親しみだすとやめられない」(注1)

 例外的に猛毒カンタリジン(致死量30ミリグラム)を体液に持つ昆虫がいて注意を要する。マメハンミョウ(ツチハンミョウ科)、アオカミキリモドキ(カミキリモドキ科)が代表的な種である。これらは食べてはいけない。マメハンミョウは特に毒の量が多く、乾燥粉末数頭分で致死量といわれている。あやまって触れると火傷状の水膨れになりヒリヒリ痛む。両者とも普通種で、マメハンミョウは成虫は豆の葉を食べるが、幼虫はイナゴの卵を食べる。最近減農薬でイナゴが増えたことから本種も増えつつある。アオカミキリモドキは夜間よく灯火に飛来する。

 現実的にはマメハンミョウを相当量食べる機会はないとおもわれるが、次のような症状が出たら要注意である。吐き気、嘔吐、腹痛、下痢など。血圧低下、尿毒症、呼吸不全などで死亡する場合もある。

 またアオバアリガタハネカクシはペデリンという毒を体液に含んでいる。カンタリジンよりは毒性は弱いが、これも食べないほうが無難である。皮膚につくと線状皮膚炎になる。

 有害な寄生虫では、カタツムリ、ナメクジ、タニシなどに広東住血線虫(脳や脊髄の血管や髄液の中に寄生し、髄膜脳炎の症状を起こす)が、サワガニに宮崎肺吸虫(咳と血の混ざった痰が出る)が寄生していることがある。これらは熱を通せば死滅する。触れた手も石鹸でしっかり洗うことを習慣づけよう。

 アレルギー体質の人も注意を要する。甲殻類アレルギーの人は食べないほうが無難である。もしくは少量ずつ試してみるといいだろう。甲殻類アレルギーのアレルゲンはトロポミオシンという物質であることが分かっている。タコやイカなど軟体動物アレルギーのアレルゲンでもある。同じ節足動物であるクモ類のダニや昆虫類のゴキブリなどによるアレルギーもこのトロポミオシンが関与している。したがってダニアレルギーの人も注意が必要である。甲殻類アレルギー体質ではなくとも何らかのアレルゲンを体内に残した虫を食べて発症する可能性もあるので、一昼夜ぐらいのフン出しは食味以外の意味もある。

 農薬汚染については、最近は減農薬とはいえ、やはりいくつかの注意点を挙げておきたい。通常の食品は「食品衛生法」で残留農薬の基準値が決められている。だが野生食材を食べる場合は各自で判断するしかない。採集する周辺に農薬が使われていないかをチェックすべきである。薬剤が使われている場合は残留している可能性もある。特にゴルフ場周辺などは判断しにくいので、むしろ採集を避けるほうが無難である。

 次回から具体的に虫を食べる話に入る。なんと最初からゴキブリの登場である。それにはそれなりの訳がある。乞うご期待。

 注
(1)歩く食通の会編(1971年):『全国珍味ゲテモノ案内』、双葉社、123?124頁。

参考資料
日本人が主に食べてきた虫リスト
 (伝統的に食べられてきた種類で、これらは安心して食べることができる。)
筆者がこれまで食べたことがある虫リスト
 (これらを食べて食中毒にかかったことはない。経験的にオススメの虫たちである。)
・『食品衛生責任者教本』(2006年改訂版)、社団法人東京都食品衛生協会。
・川合述史(1997年):『一寸の虫にも十分の毒』、講談社。
・羽根田治(2004年):『野外毒本』、山と渓谷社。
・今泉忠明(1994年):『猛毒動物の百科』、データハウス。

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