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Bugeaterの虫食いノート第一回
「虫を安心して食べるには @」

 昆虫食の世界にようこそ。今でこそ虫を食うと言うととかく奇異な目で見られがちだが、少し歴史をさかのぼれば人は虫を日常食として生き延びてきた。世界的に見れば虫が好んで食べられている地域が多く、日本でも信州など中部地方の一部では土産物店やスーパーなどに虫の佃煮の缶詰や瓶詰が売られている。虫は究極の伝統食ともいえる。虫は美味しくて健康的な食材なのである。

 さあ虫食いノートの1頁を開こう。虫をおいしく食べるためのウォーミングアップを始めよう。何ごとも相手を知ることからすべてがはじまる。ちっぽけな虫といえどもあなどってはいけない。食べるという人間の生存にかかわることなのだから。未知の食材にはリスクがつきものである。それをいかにうまく避けながら、どうやったら新鮮な味に出会えるか。それがこのコラムのねらいでもある。  

 〈虫〉の定義をしよう。ここでいう虫とは「主として昆虫だが、ほ乳類、鳥類、爬虫類、両生類、塩水生魚貝類以外の小動物、節足動物も含む」とする。つまり狭義の昆虫以外のムカデ、クモ、カタツムリなども含む。ただし食文化と関わるとき〈昆虫〉を用いる。  

 そうはいっても食べなれないものを口に入れるのは不安なものである。病原微生物に汚染されていて感染症にかかったりしないか、有毒であったり有害であったりして食中毒にならないかなど。そこでまず食品衛生の面から、安心して食べるにはどうしたらいいかを考えてみよう。食中毒は病因物質により大きく以下の三種類に分けられる。  

(1)微生物による食中毒
 サルモネラ、病原大腸菌など細菌感染型。黄色ブドウ球菌、ボツリヌス菌など細菌毒素型。ノロウイルスなどウイルスによるもの。クリプトスポリジウムなど原虫によるもの。
(2)自然毒による食中毒
 キノコ、馬鈴薯の芽など植物性。フグ、貝など動物性。ここに虫毒も含まれる。
(3)化学物質による食中毒
 農薬、有機水銀、PCB汚染など。
 

 以下に述べるリスクを回避する基本的なポイントは虫に限らない。野生動物全般にあてはまる。
○調理前に石鹸でよく手を洗う。
○調理用具はよく洗い殺菌する。
○食品は十分加熱する(75度で1分以上)。
○調理後に食品に直接素手で触れない。
○調理したらすぐ食べるか冷蔵(5度以下)する。

 微生物の増殖の条件は以下の三点である。
(1)適当な栄養素(食品)
(2)適当な温度
(3)適当な水分
 微生物は中性か弱アルカリ性が適し、酸性では増殖しにくい。  

あらゆる微生物が10度から60度の間で増殖し、0度以下ではほとんどの微生物が増殖できず、65度以上でほとんどの微生物は死ぬ。ただし芽胞を作る微生物は菌自体が死滅しても芽胞は生き残る場合がある。猛毒でしられるボツリヌスも有芽胞菌で、日本に多い比較的耐熱性が低いといわれるものでも芽胞を死滅させるのに90度以上の加熱が必要とされる。  

料理前の手洗いはかかせない。熱を通すことで発病のリスクをゼロに近づけることができる。せっかく熱を通して殺菌しても、素手で触ってはもともこもない。調理後は菜箸を使うなどして衛生面に気を使おう。調理器具も意外な盲点である。清潔にしておこう。これが楽しく虫を食べるための第一歩である。  

感染型と異なり、加熱して菌は死んでも毒素が残る場合がある。これを毒素型といい、たとえば黄色ブドウ球菌が出すエンテロトキシンがある。熱に強く加熱しても無毒にならない。この菌は化膿した傷の中に多いので手洗いがきわめて重要である。ちなみに毒素型で最も怖ろしいのがボツリヌス菌で、致死率が高く、約40パーセントにものぼる。毒素は80度30分加熱で分解される。土壌や水中に分布する嫌気性菌で、比較的酸素の少ない環境の食品に増殖する。  

次回は虫をふくむ自然毒から見ていこう。

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