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第十一回
「権兵衛さんとカラスのお話し」
豆のお話し

 「権兵衛が種まきゃカラスがほじる」と言う噺があります。

 権兵衛さんが畑に豆を撒いていると、その後では撒いたばかりの豆をカラスが掘り起こして食べていると言うお話しです。

 農家の方は豆類を撒く時、鳥が嫌う薬を混ぜてから撒くのですが、それでも鳥は豆を掘り起こして食べます。

 豆は鳥に食べられずに芽を出しても、その芽をハトが啄みます、大変ですね。

 鳥の害をかわして20〜30cmに成長したところで今度はシカがやって来て食べてしまうのです。

 農家のご夫人が秋祭りに「孫の為にオハギを作ってあげよう」とアヅキを植えたのですが、前例の如く、何度、種を撒いてもハト、カラスやシカに食べられて仕舞い、作るのを諦めたと言う話しを聞きました。

 これほどに農作物を作る事は簡単ではないのです。その苦労を考えると食べ物を粗末には出来ませんね。野食をやっている方は食べ物を粗末にしないと確信しております。

稲作と有害鳥獣駆除

 我々はお米が美味しいとか不味い、或いは高いとか文句を言いますが

 農家は耕作機械や農薬、肥料、米価問題以外にお米に対する有害鳥獣との戦いは本当に大変です。

A, シカの害
 稲作は機械化や肥料、農耕技術が進み、半世紀前に比べれば、同じ広さの田から三倍のお米が収穫できるそうです。農家が水田に稲苗を植え付けます。機械化により手植えでは2〜3日かかったこの作業が、1日或いは半日で出来るようになりました。しかし、植えたばかりの稲苗が翌朝には水から上に出た部分が無くなっているのです。それはまるで機械で刈り取ったようです。

 シカの仕業です。シカは夜にやって来て、植えたばかりの稲苗を食べるのです。農家は農協から稲苗を購入して、もう一度植え直さなければいけません。

 その費用と労力は計り知れないものがあります。それが故に有害鳥獣駆除は必要不可欠のものなのです。農家の中には「シカを見ました、駆除をして下さい」と嘘をついてまでも、有害鳥獣駆除の要請をする方もあります。

B, カモの害
 稲作にとって夏場の管理は大変です。病害虫に罹らない為にたくさん農薬を使用します。雑草除去も大変です。少し稲が伸びてくると先に稗(ヒエ)が結実します。放置しておくと田は稲を作っているのか、稗を作っているのか分からなくなります。それくらい稗の生命力は甚大です。

 稲が結実し始める頃、害を及ぼすのがカモやスズメです。

 カモは穂先を垂らした稲を嘴で咥えて梳くようにして食べます。一羽が食べる量は少しでも群れを作って田を荒らします。カモは夜行性なので銃器による駆除は夜明け直後、カモがまだ田に残っている時間帯に行なわれます。

C, スズメの害
 スズメの体重は約24グラムです。あの飛翔力を維持するために一日に体重の3分の1程度の餌を食べると個人的には考えています。数千羽から時には一万羽の群れが結実した田を襲うのです。その賑やかで凄まじいことと言ったら、空が暗く成るほどと言っても良いかも知れません。

 被害はイノシシに匹敵するかも知れません。スズメは銃器による駆除が不可能に近いので、爆音機で追い払うことが精一杯出来る事でしょう。

D, イノシシの害
 稲作に対するイノシシの被害は甚大です。イノシシはシカのように苗の頃は被害を及ぼしませんが、結実直後の柔らかい稲が好きなようです。稲を口で咥えて梳くように食べるのです。

 更にイノシシは満腹になると、身体に付いたダニを落とすために田で転げ回るので、残った稲も全滅します。農家の半年間の苦労は一夜にして水疱と化します。

E, シカ、スズメの害
 刈り獲ってしまえばもう大丈夫に見えますがそうではないのです。

 今はコンバインで収穫と同時に袋詰めして、後は機械乾燥・脱穀になりますが、本当に美味しいお米を作るために、稲木を組んで自然乾燥させる農家もあります。そこへ昼間やって来るのはスズメです。大群を作って襲撃しましから、束ねた稲の表の部分はあっと言う間に無くなってしまいます。そして夜にやって来るのはシカです。シカは稲木に掛かった稲を食べます。更に口の届かないところは稲木を倒して食べるのです。農家の苦労に終わりはありません。

 古人曰く、米と言う字は八十八と書く、八十八回の手間が掛かると言うのです。

 ご飯粒一つでも勿体無いと思う心を忘れないようにしましょう。こんな事を言う私は古い人間でしょうか。

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